古事記上巻(神代)
全神名表(登場順)

第一章:天地の初め

まず天と地が分かれて、「造化の三神」と呼ばれる三柱の観念神が高天原(たかまがはら)に出現する。

この三神は殊に特別な神でそれぞれが独立した神であり、現われるとすぐに身を隠した。それに次いで大地が生成されていく様子をあらわした神が次々と現われる。彼らは上記の三神を含めて3、5、7の数で区切られており(特に5区切りである「別天神(ことあまつかみ)」などは強引な区切り方とも言える)、国之常立神から伊邪那美神までは「神世七代(かみよななよ)」と呼ばれる。これは奇数を「陽数」として尊ぶ中国の思想を反映したものである。

001
天之御中主神
あめのみなかぬしのかみ
意味
天の中央に坐し天を主催する神。
002
髙御產巢日神
たかみむすひのかみ
意味
高天原の神として生成を司る神。
系譜
148:思金神の親(3-3)
252:萬幡豐秋津師比賣命の親(6-1)
別称
髙木神
たかぎのかみ
(5-1)
003
神產巢日神
かみむすひのかみ
意味
出雲の神として生成を司る神。
系譜
211:少名毘古那神の親(4-6)
別称
神產巢日之命
かみむすひのみこと
(4-1)
神產巢日御祖命
かみむすひみおやのみこと
(4-6)
004
宇摩志阿斯訶備比古遲神
うましあしかびひこぢのかみ
意味
万物の生命力と成長力をアシカビ(葦の芽)で象徴する神。
005
天之常立神
あめのとこたちのかみ
意味
高天原が永遠に存在することを象徴する神。
006
国之常立神
くにのとこたちのかみ
意味
日本国土が永遠に存在することを象徴する神。
007
豐雲野神
とよくもののかみ
意味
原野が形成される様子を象徴する神。
008
宇比地邇神
うひぢにのかみ
意味
泥土を神格化した神。
009
須比智邇神
すひじにのかみ
意味
砂土を神格化した神。
010
角杙神
つのぐひのかみ
意味
語義不詳。
011
活杙神
いくぐひのかみ
意味
語義不詳。
012
意富斗能地神
おほとのぢのかみ
意味
大戸を象徴する男神。
013
大斗乃辧神
おほとのべのかみ
意味
大戸を象徴する女神。
014
於母陀流神
おもだるのかみ
意味
地面の完成を象徴する神。
015
阿夜訶志古泥神
あやかしこねのかみ
意味
「奇に畏し(あやにかしこし=言い表せないほどに恐れ敬うべき)」を神名化したもの。
016
伊邪那岐神
いざなぎのかみ
意味
いざなう男神の意。
系譜
017:伊邪那美神とともに018:淤能碁呂嶋・019:水蛭子・020:淡嶋を生む(2-1)
017:伊邪那美神とともに壹拾四島を生む(2-2)
017:伊邪那美神とともに參拾五神を生む(2-3)
涙より081:泣澤女神が成る(2-4)
投げ捨てた杖より111:衝立船戶神、帯より112:道之長乳齒神、袋より113:時量師神、衣より114:和豆良比能宇斯能神、袴より115:道俣神、冠より116:飽咋之宇斯能神、左手の腕輪より117:奧疎神・118:奧津那藝佐毘古神・119:奧津甲斐辨羅神、右手の腕輪より120:邊疎神・121:邊津那藝佐毘古神・121:邊津甲斐辨羅神が成る(2-6)
中流の瀬で身を清めた時、穢れより123:八十禍津日神・124:大禍津日神、それを直すため125:神直毘神・126:大直毘神・127:伊豆能賣神が成る。また身をすすいだ時水底で128:底津綿津見神・129:底筒之男命が、水中で130:中津綿津見神・131:中筒之男命が、水上で132:上津綿津見神・133:上筒之男命が成る(2-6)
左眼を洗ったとき135:天照大御神、右目を洗ったとき136:月讀神、鼻を洗ったとき137:建速須佐之男命が成る(2-6)
別称
伊邪那岐命
いざなぎのみこと
(2-1)
伊邪那大御神
いざなぎのおほみかみ
伊邪那大神
いざなぎのおほかみ
(3-1)
017
伊邪那美神
いざなみのかみ
意味
いざなう女神の意。
系譜
016:伊邪那岐神とともに018:淤能碁呂嶋・019:水蛭子・020:淡嶋を生む(2-1)
016:伊邪那岐神とともに壹拾四島を生む(2-2)
016:伊邪那岐神とともに參拾五神を生む(2-3)
別称
伊邪那美命
いざなみのみこと
(2-1)
黄泉津大神
よこつおほかみ
道敷大神
ちしきのおほかみ
(2-5)
第二章:伊邪那岐命と伊邪那美命

2-1. 淤能碁呂島

最初の夫婦神、伊邪那岐命と伊邪那美命は「天沼矛(あめのぬぼこ)」という矛を用いドロドロだった地上に淤能碁呂島を作って降り立つ。男女の体の違いが語られた後、二人は「天之御柱(あめのみはしら)」の周りをまわって神的な交接をするが、生まれたのは不具の子と不具の島であった。

伊邪那岐命
いざなぎのみこと
出自
016:伊邪那岐神の別称
伊邪那美命
いざなみのみこと
出自
017:伊邪那美神の別称
018
淤能碁呂嶋
おのごろしま
意味
自ずから凝り固まる島の意
019
水蛭子
ひるこ
意味
蛭のように手足のない不具の子の意
020
淡嶋
あわしま
意味
産み損じた島の意

2-2. 二神の国産み

女から先に声をかけたから失敗したのだということになり、今度は伊邪那岐命から声をかけた。その後生まれた島(国)々は立派なものだった。ここで声をかける順番を問題にしているのは夫唱婦随(夫が発言し、それに妻が従うべき)思想が反映されているためである。この国産み神話は淡路島から始まっているが、これは伊邪那岐命がもともと淡路島周辺の海人(あま)集団の信仰する神であった名残だと考えられる。畿東以東はまったく考慮されないこと、大八島国という国号を用いていることから、この国産み神話は七世紀後半以降に成立したものだと考えられている。

021
淡道之穂之狭別嶋
あわじのほのさわけのしま
意味
淡路島とその別称を組み合わせたもの。稲穂を象徴している。
系譜
壹拾四島の1・大八嶋國の1
022
愛比賣
えひめ
意味
伊予国の人格化で愛すべき女性の意。
系譜
壹拾四島の2・大八嶋國の2・伊豫之二名嶋の1-1
023
飯依比古
いいよりひこ
意味
讃岐国の人格化で食物を象徴する男神。
系譜
壹拾四島の2・大八嶋國の2・伊豫之二名嶋の2-1
024
大宣都比賣
おほげつひめ
意味
阿波国の人格化で食物を象徴する女神。
出自
072:大宣都比賣神と名前が重複している。
系譜
壹拾四島の2・大八嶋國の2・伊豫之二名嶋の2-2
025
建依別
たけよりわけ
意味
土佐国の人格化で勇猛な男性の意。
系譜
壹拾四島の2・大八嶋國の2・伊豫之二名嶋の1-2
026
天之忍󠄁許呂別
あめのおしころわけ
意味
隠伎之三子嶋、今でいう隠岐諸嶋の人格化だが語義は不詳。
系譜
壹拾四島の3・大八嶋國の3
027
白日別
しらひわけ
意味
筑紫国の人格化で白く輝く太陽の意。
系譜
壹拾四島の4・大八嶋國の4・筑紫嶋の1
028
豐日別
とよひわけ
意味
豊国の人格化で豊かな太陽の意。
系譜
壹拾四島の4・大八嶋國の4・筑紫嶋の2
029
建日向日豐久士比泥別
たけひむかいとよくじひねわけ
意味
肥国の人格化で「久士比(くじひ)」は「奇霊(くしび)」のことで霊妙なさまを表すと思われる。
系譜
壹拾四島の4・大八嶋國の4・筑紫嶋の3
030
建日別
たけひわけ
意味
熊襲国の人格化で勇猛な太陽の意。
系譜
壹拾四島の4・大八嶋國の4・筑紫嶋の4
031
天比登都柱
あめのひとつばしら
意味
壱岐嶋の尊称で、海上の孤嶋を一つの柱に見立てたもの。
系譜
壹拾四島の5・大八嶋國の5
032
天之狹手依比賣
あめのさでよりひめ
意味
対馬の人格化だが語義不詳。
系譜
壹拾四島の6・大八嶋國の6
033
佐渡嶋
さどのしま
意味
今でいう「佐渡嶋(さどがしま)」。人格化されず尊称もない。
系譜
壹拾四島の7・大八嶋國の7
034
天御虛空豐秋津根別
あまつみそらとよあきづねわけ
意味
大倭豊秋津嶋、今でいう畿内地方の尊称。
系譜
壹拾四島の8・大八嶋國の8
035
建日方別
たけひかたわけ
意味
吉備の児島(現在の児島半島)の尊称。語義不詳。
系譜
壹拾四島の9・六嶋の1
036
大野手比賣
おほのでひめ
意味
瀬戸内海の小豆島の人格化。語義不詳。
系譜
壹拾四島の10・六嶋の2
037
大多流別
おほたまるわけ
意味
大島(山口県の大島のことか)の尊称。語義不詳。
系譜
壹拾四島の11・六嶋の3
038
天一根
あめのひとつね
意味
女島(国東半島の女島のことか)の尊称。海上の孤島の意か。
系譜
壹拾四島の12・六嶋の4
039
天忍󠄁男
あめのおしお
意味
知訶島(今の五島列島)の人格化。オシオは「多し男」の意か。
系譜
壹拾四島の13・六嶋の5
040
天兩屋
あめのふたや
意味
両児島(五島列島にある男女群島か)の尊称。
系譜
壹拾四島の14・六嶋の6

2-3. 二神の神産み

二神は国産みを終えた後さらに数々の神を生んだ。住居に関する神、海や河に関係する神、灌漑に関係する神、風・木・草・山の神、山の風景などに関係する神、船の神、穀物の神などを生んだあと、最後に火の神を生む。火の神を生んだことで伊邪那美命は陰部を焼かれ苦しみ、吐いたり排泄物を出したりするが、これらからは農業生産に関係の深い神々などが生まれている。これが原因で伊邪那美命は死んでしまう。

041
大事忍󠄁男神
おほことおしおのかみ
意味
語義不詳。
系譜
參拾五神の1
042
石土毘古神
いはつちびこのかみ
意味
岩や土を象徴する男神。
系譜
參拾五神の2
043
石巢比賣神
いはすびめのかみ
意味
岩や砂を象徴する女神。
系譜
參拾五神の3
044
大戶日別神
おほとひわけのかみ
意味
家の戸口の神。
系譜
參拾五神の4
045
天之吹男神
あめのふきをのかみ
意味
屋根を葺く男神の意か。
系譜
參拾五神の5
046
大屋毘古神
おほやびこのかみ
意味
家屋を司る男神。
系譜
參拾五神の6
047
風木津別之忍󠄁男神
かざもつわけのおしをのかみ
意味
語義不詳。風を司る男神か。
系譜
參拾五神の7
048
大綿津見神
おほわたつみのかみ
意味
海の主宰する神。
系譜
參拾五神の8
264:豐玉毘賣の親(7-2)
267:玉依毘賣の親(7-4)
別称
綿津見神
わたつみのかみ
綿津見大神
わたつみのおほかみ
(7-2)
049
速秋津日子神
はやあきつひこのかみ
意味
海に流れ込む水を飲み込む禊の男神。
系譜
參拾五神の9-1
050:速秋津比賣神とともに051:沫那藝神・052:沫那美神・053:頰那藝神・054:頰那美神・055:天之水分神・056:國之水分神・057:天之久比奢母智神・058:國之久比奢母智神の八神の親(2-3)
050
速秋津比賣神
はやあきつひめのかみ
意味
海に流れ込む水を飲み込む禊の女神。
系譜
參拾五神の9-2
049:速秋津日子神とともに051:沫那藝神・052:沫那美神・053:頰那藝神・054:頰那美神・055:天之水分神・056:國之水分神・057:天之久比奢母智神・058:國之久比奢母智神の八神の親(2-3)
051
沫那藝神
あわなぎのかみ
意味
水面に立つ泡を象徴する男神。
系譜
參拾五神の10
049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神の子(2-3)
052
沫那美神
あわなみのかみ
意味
水面に立つ泡を象徴する女神。
系譜
參拾五神の11
049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神の子(2-3)
053
頰那藝神
つらなぎのかみ
意味
水面を象徴する象徴する男神。
系譜
參拾五神の12
049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神の子(2-3)
054
頰那美神
つらなみのかみ
意味
水面を象徴する象徴する女神。
系譜
參拾五神の13
049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神の子(2-3)
055
天之水分神
あめのみくまりのかみ
意味
分水嶺の神。
系譜
參拾五神の14
049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神の子(2-3)
056
國之水分神
くにのみくまりのかみ
意味
分水嶺の神。
系譜
參拾五神の15
049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神の子(2-3)
057
天之久比奢母智神
あめのくひざもちのかみ
意味
汲瓠持(くみひさごもち)の意か。灌漑の神。
系譜
參拾五神の16
049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神の子(2-3)
058
國之久比奢母智神
くにのくひざもちのかみ
意味
汲瓠持(くみひさごもち)の意か。灌漑の神。
系譜
參拾五神の17
049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神の子(2-3)
059
志那都比古神
しなつひこのかみ
意味
「志那(しな)」は風長(しな)の意。風の神。
系譜
參拾五神の18
060
久久能智神
くくのちのかみ
意味
「茎の霊」の意。草の神。
系譜
參拾五神の19
061
大山津見神
おほやまつみのかみ
意味
山を主宰する神。
系譜
參拾五神の20
062:鹿屋野比賣神とともに063:天之狹土神・064:國之狹土神・065:天之狹霧神・066:國之狹霧神・067:天之闇戶神・068:國之闇戶神・069:大戶惑子神・070:大戶惑女神の八神の親(2-3)
155:足名椎の親(3-5)
160:神大市比賣・163:木花知流比賣の親(3-6)
258:神阿多都比賣・259:石長比賣の親(6-5)
062
鹿屋野比賣神
かやのひめのかみ
意味
「鹿屋(かや)」は屋根を葺く草のこと。草野の神
系譜
參拾五神の21
061:大山津見神とともに063:天之狹土神・064:國之狹土神・065:天之狹霧神・066:國之狹霧神・067:天之闇戶神・068:國之闇戶神・069:大戶惑子神・070:大戶惑女神の八神の親(2-3)
別称
野槌神
のづちのかみ
(2-3)
野槌神
のづちのかみ
意味
「野の霊」の意。
出自
062:鹿屋野比賣神の別称
063
天之狹土神
あめのさづちのかみ
意味
山野の土の神。
系譜
參拾五神の22
061:大山津見神と062:鹿屋野比賣神の子(2-3
064
國之狹土神
くにのさづちのかみ
意味
山野の土の神。
系譜
參拾五神の23
061:大山津見神と062:鹿屋野比賣神の子(2-3
065
天之狹霧神
あめのさぎりのかみ
意味
山野の霧の神。
系譜
參拾五神の24
061:大山津見神と062:鹿屋野比賣神の子(2-3
208:遠津待根神の親(4-5
別称
天狹霧神
あめのさぎりのかみ
(4-5)
066
國之狹霧神
くにのさぎりのかみ
意味
山野の霧の神。
系譜
參拾五神の25
061:大山津見神と062:鹿屋野比賣神の子(2-3
067
天之闇戶神
あめのくらとのかみ
意味
クラトは暗い場所の意。谷間の神。
系譜
參拾五神の26
061:大山津見神と062:鹿屋野比賣神の子(2-3
068
國之闇戶神
くにのくらとのかみ
意味
クラトは暗い場所の意。谷間の神。
系譜
參拾五神の27
061:大山津見神と062:鹿屋野比賣神の子(2-3
069
大戶惑子神
おほとまとひこのかみ
意味
マトヒは迷いの意か。
系譜
參拾五神の28-1
061:大山津見神と062:鹿屋野比賣神の子(2-3
070
大戶惑女神
おほとまとひめのかみ
意味
マトヒは迷いの意か。
系譜
參拾五神の28-2
061:大山津見神と062:鹿屋野比賣神の子(2-3
071
鳥之石楠船神
とりのいはくすふねのかみ
意味
空を飛ぶ神の乗る楠の船の神格化。
系譜
參拾五神の29
別称
天鳥船
あめのとりふね
(2-3)
天鳥船神
あめのとりふねのかみ
(5-3)
天鳥船
あめのとりふね
意味
鳥のように天を飛ぶ船の意。
出自
071:鳥之石楠船神の別称
072
大宣都比賣神
おほげつひめのかみ
意味
食物を象徴する女神。
出自
024:大宣都比賣と名前が重複している。
系譜
參拾五神の30
230:羽山戶神とともに233:若山咋神・234:若年神・235:若沙那賣神・236:彌豆岐神・237:夏高津日神・238:夏之賣神・239:秋毘賣神・240:久久年神・241:久久紀若室葛根神の親(4-7)
別称
大氣津比賣神
おほげつひめのかみ
大氣都比賣
おほげつひめ
大宣津比賣神
おほげつひめのかみ
(3-4)
073
火之夜藝速男神
ひのやぎはやおのかみ
意味
火の焼ける威力を表す神名。
系譜
參拾五神の31
斬られた頭から090:正鹿山津見神、胸から091:淤縢山津見神、腹から092:奧山津見神、陰部から093:闇山津見神、左手から094:志藝山津見神、右手から095:羽山津見神、左足から096:原山津見神、右足から097:戶山津見神が成る(2-4)
別称
火之炫毘古神
ひのかがびこのかみ
具土神
ひのかぐつちのかみ
(2-3)
火之炫毘古神
ひのかがびこのかみ
意味
火の輝きを表す神名。
出自
073:火之夜藝速男神の別称
具土神
ひのかぐつちのかみ
意味
「火の輝きの霊」の意。
出自
073:火之夜藝速男神の別称
074
金山毘古神
かなやまびこのかみ
意味
鉱山の男神の意。
系譜
參拾五神の32-1
017:伊邪那美神の吐瀉物から成る(2-3)
075
金山毘賣神
かなやまびめのかみ
意味
鉱山の女神の意。
系譜
參拾五神の32-2
017:伊邪那美神の吐瀉物から成る(2-3)
076
波邇夜須毘古神
はにやすびこのかみ
意味
粘土、陶土の男神。
系譜
參拾五神の33-1
017:伊邪那美神の糞から成る(2-3)
077
波邇夜須毘賣神
はにやすびめのかみ
意味
粘土、陶土の女神。
系譜
參拾五神の33-2
017:伊邪那美神の糞から成る(2-3)
078
彌都波能賣神
みつはのめのかみ
意味
灌漑用水や井戸水の神。
系譜
參拾五神の34
017:伊邪那美神の尿から成る(2-3)
079
和久產巢日神
わくむすひのかみ
意味
ワクは若の意。ムスヒは霊的な生成力をあらわす。
系譜
參拾五神の35
017:伊邪那美神の尿から成る(2-3)
080:豐宇氣毘賣神の親(2-3)
080
豐宇氣毘賣神
とようけびめのかみ
意味
食物を司る女神。
系譜
079:和久產巢日神の親(2-3)
別称
登由宇氣神
とゆうけのかみ
(6-3)

2-4. 火神具土神

伊邪那岐命は妻である伊邪那美命の死を嘆き悲しみ、葬ったあとにその原因となった火之具土神の首を持っていた刀で切った。すると飛び散った血や刀についた血、また火之具土神のバラバラになった体からも神々が生まれた。

081
泣澤女神
なきさわめのかみ
意味
「多くの涙を流す神」の意。湧き出る水を神格化。
系譜
016:伊邪那岐神の涙より成る(2-4)
082
石拆神
いわさくのかみ
意味
「岩を割く神」の意。雷の威力を神格化したもの。
系譜
246:伊都尾羽張神(刀)の先から岩に飛び散った血からなる(2-4)
083
根拆神
ねさくのかみ
意味
「木の根を割く神」の意。雷の威力を神格化したもの。
系譜
246:伊都尾羽張神(刀)の先から岩に飛び散った血からなる(2-4)
084
石筒之男神
いはつつのをのかみ
意味
岩石の霊威を表す神か。
系譜
246:伊都尾羽張神(刀)の先から岩に飛び散った血からなる(2-4)
085
甕速日神
みかはやひのかみ
意味
ミカは「厳(いか)=いかめしい」の意。火の根源たる太陽の神格化か。
系譜
246:伊都尾羽張神(刀)の先から岩に飛び散った血からなる(2-4)
086
樋速日神
ひはやひのかみ
意味
古く雷は太陽から火を運ぶとされた。火の根源たる太陽の神格化か。
系譜
246:伊都尾羽張神(刀)の先から岩に飛び散った血からなる(2-4)
087
建御雷之男神
たけみかづちのをのかみ
意味
勇猛な雷の男神の意。雷は剣の神霊と考えられた。
系譜
246:伊都尾羽張神(刀)の先から岩に飛び散った血からなる(2-4)
別称
建布都神
たけふつのかみ
豐布都神
とよふつのかみ
(2-4)
建御雷神
たけみかづちのかみ
(5-3)
建布都神
たけふつのかみ
意味
タケは勇猛な様。フツは物が切れる音、あるいは光るものの意か。
出自
087:建御雷之男神の別称
豐布都神
とよふつのかみ
意味
トヨは豊かな様。フツは物が切れる音、あるいは光るものの意か。
出自
087:建御雷之男神の別称
088
闇淤加美神
くらおかみのかみ
意味
クラは谷間。渓谷の水を司る神。
系譜
246:伊都尾羽張神(刀)の柄の血が指の間から漏れ成る(2-4)
089
闇御津羽神
くらみつはのかみ
意味
クラは谷間。渓谷の水を司る神。
系譜
246:伊都尾羽張神(刀)の柄の血が指の間から漏れ成る(2-4)
090
正鹿山津見神
まさかやまつみのかみ
意味
マサカは不詳。ヤマツミは山の霊。
系譜
072:火之夜藝速男神の斬られた頭から成る(2-4)
090
淤縢山津見神
おどやまつみのかみ
意味
オドは不詳。ヤマツミは山の霊。
系譜
072:火之夜藝速男神の斬られた胸から成る(2-4)
091
奥山津見神
おくやまつみのかみ
意味
奥深い山を司る神。
系譜
072:火之夜藝速男神の斬られた腹から成る(2-4)
093
闇山津見神
くらやまつみのかみ
意味
谷山を司る神。
系譜
072:火之夜藝速男神の斬られた陰(ほと)から成る(2-4)
094
志藝山津見神
しぎやまつみのかみ
意味
谷山を司る神。
系譜
072:火之夜藝速男神の斬られた左の手から成る(2-4)
095
羽山津見神
はやまつみのかみ
意味
ハは「葉」ないし「端」の意か。
系譜
072:火之夜藝速男神の斬られた右の手から成る(2-4)
096
原山津見神
はらやまつみのかみ
意味
原山を司る神。
系譜
072:火之夜藝速男神の斬られた左の足から成る(2-4)
097
戶山津見神
とやまつみのかみ
意味
トは外。奥山と対している。
系譜
072:火之夜藝速男神の斬られた右の足から成る(2-4)

2-5. 黄泉国

妻の死に納得できない伊邪那岐命は後を追って黄泉国に行き、伊邪那美命に帰ってきてくれと懇願する。しかし一度でも黄泉国の食べ物を口にしてしまった者は帰ることが出来ないという。伊邪那美命が黄泉神と相談する間、「私の姿をみてはいけない」と言われた伊邪那岐命だったが、あまりにも時間が長いので妻の姿を覗き見してしまう。そこにあったのは蛆がたかり雷の神を身に纏った、変わり果てた妻の体だった。恥をかかされた伊邪那美神は逃げる伊邪那岐命に追っ手を差し向けるが、なんとか伊邪那岐命は逃げ延び現世と黄泉国の境である「黄泉比良坂(よもつひらさか)」にたどり着き、「千引石(ちびきのいわ)」でその境を塞いだ。二人は夫婦の縁を断ち、伊邪那美命が「一日で千人を絞め殺しましょう」というと伊邪那岐命は「ならば一日で千五百の産屋を建てよう」と応える。これは人間の生と死の起源を語る神話である。

098
黄泉神
よもつかみ
意味
黄泉国を治める神。
099
大雷
おほいかづち
意味
雷の霊。「若」と対応している。
系譜
017:伊邪那美神の頭にいた(2-5)
100
火雷
ほのいかづち
意味
火と雷が関係が深いことを表す名か。
系譜
017:伊邪那美神の胸にいた(2-5)
101
黑雷
くろいかづち
意味
「黒い雷」の意だが語義不詳。
系譜
017:伊邪那美神の腹にいた(2-5)
102
拆雷
さきいかづち
意味
雷が物を割くところからの名。また女性器の形とも関連している。
系譜
017:伊邪那美神の陰部にいた(2-5)
103
若雷
わかいかづち
意味
「若」は先の「大」との対比。
系譜
017:伊邪那美神の左手にいた(2-5)
104
土雷
つちいかづち
意味
語義不詳。
系譜
017:伊邪那美神の右手にいた(2-5)
105
鳴雷
なりいかづち
意味
語義不詳。
系譜
017:伊邪那美神の左足にいた(2-5)
106
伏雷
ふしいかづち
意味
語義不詳。
系譜
017:伊邪那美神の右足にいた(2-5)
107
豫母都志許賣
よもつしこめ
意味
黄泉の醜い女の意。死の穢れの人格化。
108
黄泉軍
よもついくさ
意味
黄泉国の兵隊のこと。
109
意富加牟豆美命
おほかむづみのみこと
意味
オオカムは「大神」、ミは「実」ないし「霊」の意か。桃の実の邪気を退ける力を司る神。
黄泉津大神
よもつおほかみ
意味
伊邪那美神の死の神としての名。
出自
017:伊邪那美神の別称
道敷大神
ちしきのおほかみ
意味
チシキは「道及(ちし)き」の意、つまり道を追いついた大神の意。
出自
017:伊邪那美神の別称
110
道反之大神
ちがえしのおほかみ
意味
道から追い返した大神の意。千引石に与えられた神名。
別称
塞坐黄泉戶大神
さよりますどのおほかみ
(2-5)
塞坐黄泉戶大神
さよりますどのおほかみ
意味
黄泉国と現世を隔てる処から。
出自
110:道反之大神の別称

2-6. 禊祓と三貴子

伊邪那岐命は黄泉国に赴いたために穢れてしまった体を洗い清める(=禊祓(みそぎばらえ))。この時、脱ぎ捨てたものから十二神が、洗い清めることによって十神が生まれた。最後の三神を「貴(たっと)い子が生まれた」と喜んだ伊邪那岐命は、天照大御神に高天原を、月讀命に夜の国を、建速須佐之男命に海原を任せると命を出した。

111
衝立船戶神
つきたつふなどのかみ
意味
ツキタツは杖を突き立てること、フナドは「来な門(くなと)」でここから来るなの意。穢れの侵入を防ぎ止める神。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた杖より成る(2-6)
112
道之長乳齒神
みちのながちはのかみ
意味
ナガチハは「長道磐」とすれば長い道を司る磐の神か。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた帯より成る(2-6)
113
時量師神
ときはかしのかみ
意味
「時量師(ときはかし)」が「時置師(ときおかし)」の誤記だとすれば、「紐を解き、置き給う」の意。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた袋より成る(2-6)
114
和豆良比能宇斯能神
わづらひのうしのかみ
意味
ワズラヒは「煩(わずら)い」、ウシは「主」の意。苦しみや病気を支配する神。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた衣より成る(2-6)
115
道俣神
ちまたのかみ
意味
分れ道を守る神。袴の形からの連想。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた袴より成る(2-6)
116
飽咋之宇斯能神
あきぐひのうしのかみ
意味
アキグヒは「口を開けて食う」の意か。ウシは主の意。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた冠より成る(2-6)
117
奧疎神
おきざかるのかみ
意味
オキは「沖」、ヘと対。ザカルは「離(さか)る=遠ざかる」の意。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた左手の腕輪より成る(2-6)
118
奧津那藝佐毘古神
おきつなぎさびこのかみ
意味
ナギサは渚(なぎさ)のこと。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた左手の腕輪より成る(2-6)
119
奧津甲斐辨羅神
おきつかひべらのかみ
意味
カヒベラを中間の意を取る向きもあるが不詳。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた左手の腕輪より成る(2-6)
120
邊疎神
へざかるのかみ
意味
ヘは辺、つまり海辺の意。オキと対。ザカルは「離(さか)る=遠ざかる」の意。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた右手の腕輪より成る(2-6)
121
邊津那藝佐毘古神
へつなぎさびこのかみ
意味
ナギサは渚(なぎさ)のこと。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた右手の腕輪より成る(2-6)
122
邊津甲斐辨羅神
へつかひべらのかみ
意味
カヒベラを中間の意を取る向きもあるが不詳。
系譜
016:伊邪那岐神の投げ捨てた右手の腕輪より成る(2-6)
123
八十禍津日神
やそまがつひのかみ
意味
ヤソは数が多いこと。マガは凶事、ヒは霊の意。多くの不幸を起こす霊威の神。
系譜
016:伊邪那岐神が中流の瀬で身を清めた時、穢れより成る(2-6)
124
大禍津日神
おほまがつひのかみ
意味
大きな不幸を起こす霊威の神。
系譜
016:伊邪那岐神が中流の瀬で身を清めた時、穢れより成る(2-6)
125
神直毘神
かむなおびのかみ
意味
カムは美称。ナホビは直すの意、曲に対する直。禍を直す神。
系譜
016:伊邪那岐神が中流の瀬で身を清めた時、穢れを直すために成る(2-6)
126
大直毘神
おほなおびのかみ
意味
ナホビは直すの意、曲に対する直。禍を直す神。
系譜
016:伊邪那岐神が中流の瀬で身を清めた時、穢れを直すために成る(2-6)
127
伊豆能賣神
いづのめのかみ
意味
イヅを厳(イツ=清められていること)とみれば、清浄な女の神の意か。
系譜
016:伊邪那岐神が中流の瀬で身を清めた時、穢れを直すために成る(2-6)
128
底津綿津見神
そこつわたつみのかみ
意味
海底を司る海の神。
系譜
016:伊邪那岐神が水の底で身をすすいだ時成る(2-6)
130:中津綿津見神、132:上津綿津見神とともに134:宇都志日金拆命の親(2-6)
129
底筒之男命
そこつつのをのみこと
意味
ツツは星。航海で目標とされたオリオン座中央の三連星。海底を司る航海の男神。
系譜
016:伊邪那岐神が水の底で身をすすいだ時成る(2-6)
130
中津綿津見神
なかつわたつみのかみ
意味
海底を司る海の神。
系譜
016:伊邪那岐神が水の中で身をすすいだ時成る(2-6)
128:底津綿津見神、132:上津綿津見神とともに134:宇都志日金拆命の親(2-6)
131
中筒之男命
なかつつのをのみこと
意味
海中を司る航海の男神
系譜
016:伊邪那岐神が水の中で身をすすいだ時成る(2-6)
132
上津綿津見神
うはつわたつみのかみ
意味
海底を司る海の神。
系譜
016:伊邪那岐神が水の上で身をすすいだ時成る(2-6)
128:底津綿津見神、130:中津綿津見神とともに134:宇都志日金拆命の親(2-6)
133
上筒之男命
うはつつのをのみこと
意味
海上を司る航海の男神。
系譜
016:伊邪那岐神が水の上で身をすすいだ時成る(2-6)
134
宇都志日金拆命
うつしひがなさくのみこと
意味
語義不詳。
系譜
128:底津綿津見神、130:中津綿津見神、132:上津綿津見神の子(2-6)
135
天照大御神
あまてらすおほみかみ
意味
天高く照らす偉大な神の意。太陽神。
系譜
016:伊邪那岐神が左眼を洗った時に成る(2-6)
天照大御神の玉を137:建速須佐之男命が噛み砕いて、左の角髪(みずら)の玉から142:正勝吾勝勝速日天之忍󠄁穂耳命、右の角髪の玉から143:天之菩卑能命、鬘(かずら)の玉から144:天津日子根命、左手の玉から145:活津日子根命、右手の玉から146:熊野久須毘命の五柱が成る。(3-2)
別称
天照大神
あまてらすおほかみ
(5-1)
136
月讀命
つくよみのみこと
意味
ツクヨミは月齢を数えるの意。月と暦を司る神。
系譜
016:伊邪那岐神が右眼を洗った時に成る(2-6)
137
建速須佐之男命
たけはやすさのをのみこと
意味
タケハヤは勇猛迅速の意。スサは出雲にある地名か、荒(すさ)ぶ=荒れ狂うの意か。
系譜
016:伊邪那岐神が鼻を洗った時に成る(2-6)
建速須佐之男命の刀を135:天照大御神が噛み砕いて139:多紀理毘賣命・140:市寸嶋比賣命・141:多岐都比賣命が成る(3-2)
157:櫛名田比賣とともに159:八嶋士奴美神の親(3-6)
160:神大市比賣とともに161:大年神・162:宇之御魂神の親(3-6)
別称
速須佐之男命
はやすさのをのみこと
(3-1)
須佐之男命
すさのをのみこと
(3-5)
138
御倉板擧之神
みくらたなのかみ
意味
倉の棚の上に存在する神の意。
系譜
135:天照大御神が016:伊邪那岐神から賜った玉に対する神名(2-6)
第三章:天照大御神と須佐之男命

3-1. 須佐之男命の神やらひ

伊邪那岐神の命によりそれぞれの世界を治めることになった三貴神であったが、須佐之男命は亡くなった伊邪那美神のいる「根之堅州國(ねのかたすくに。地下界)」に行きたいと泣いて海原を治めなかったので、海原にはあらゆる悪神と災いがはびこった。怒った伊邪那岐命は須佐之男命を海原から追放した。須佐之男命は根之堅州國に赴く前に、姉の天照大御神に会おうと思い高天原に向かったが、荒ぶる神である須佐之男命は移動するだけで山川を鳴動させ国土を震わせた。その音を聞いた天照大御神は自分の弟が高天原を奪おうと考え向かってきたと思い、勇ましく武装した男の格好で須佐之男命を迎えうけた。猛る天照大御神に須佐之男命は今までの経緯を話し、自分に邪心はないと弁明する。

ここでは速須佐之男命の暴風雨神としての一面が強く出ている。

速須佐之男命
はやすさのをのみこと
出自
137:建速須佐之男命の略称
伊邪那岐大御神
いざなぎのおほみかみ
出自
016:伊邪那岐神の別称
伊邪那岐大神
いざなぎのおほかみ
出自
016:伊邪那岐神の別称

3-2. 二神の誓約(うけひ)生み

須佐之男命は自分の赤心を誓約で証明するとした。先ず天照大御神が須佐之男命の帯びていた剣を「天之眞名井(あめのまなゐ)」の水で漱いで噛み砕き吹いた。この吹いた霧からは三柱の女神が生まれた。次に須佐之男命が天照大御神の身につけていた玉を天之眞名井の水で漱いで噛み砕き吹いた。この吹いた霧からは五柱の男神が生まれた。天照大御神は、自分の身につけていた玉から生まれた子なので、五柱の男神は私の子神であり、須佐之男命が身につけていた刀から生まれた三柱の女神は須佐之男命の子神だと区別した。

古事記ではこの後、心優しい女神を生んだのは私に邪心が無い証拠だ、として須佐之男命が勝ちを宣言するが、日本書紀には「女が生まれたら邪心があるとせよ」と書かれている。男神のうち最初に生まれたのは正勝吾勝勝速日天之忍󠄁穂耳命だが、この名前が勝ち名乗りを表しているのは明白なので、「男神が生まれたので誓約に勝った」とするのが本来の伝承だったと考えられる。このような改変が行われたのは、古事記が持統天皇や元明天王といった女帝の時代に形成されたことに理由があると考えられている。

139
多紀理毘売命
たきりびめのみこと
意味
タは接頭語か。キリは霧の意。霧を司る女神の意。
系譜
137:建速須佐之男命の刀を135:天照大御神が噛み砕いて成る(3-2)
175:大國主神とともに184:阿遲鉏髙日子根神・185:髙比賣命の親(4-5)
別称
奧津嶋比賣命
おきつしまひめのみこと
(3-2)
奧津嶋比賣命
おきつしまひめのみこと
意味
沖の島の女神の意。
出自
139:多紀理毘賣命の別称
140
市寸嶋比賣命
いちきしまひめのみこと
意味
イチキは斎(いつき=神を祀る場)の転音か。神を祀る島の女神。
系譜
137:建速須佐之男命の刀を135:天照大御神が噛み砕いて成る(3-2)
別称
狹依毘賣命
さよりびめのみこと
(3-2)
狹依毘賣命
さよりびめのみこと
意味
サは接頭語か。ヨリは神霊が依りつく、或いは船が寄り付くの意か。
出自
140:市寸嶋比賣命の別称
141
多岐都比賣命
たきつひめのみこと
意味
タキツは湍津、早瀬のこと。
系譜
137:建速須佐之男命の刀を135:天照大御神が噛み砕いて成る(3-2)
142
正勝吾勝勝速日天之忍󠄁穂耳命
まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと
意味
マサカツアカツは我は正しく勝つの意、カツハヤヒは迅速に勝つ神霊の意、オシホは多し穂の意、ミミは尊称か、或いは穂のように垂れ下がった福耳のことか。
系譜
135:天照大御神が左の角髪(みずら)につけていた玉を137:建速須佐之男命が噛み砕いて成る(3-2)
252:萬幡豐秋津師比賣命とともに251:日子番能邇邇藝命・253:天火明命の親(6-1)
別称
天之忍󠄁穂耳神
あめのおしほみみのかみ
(5-1)
143
天之菩卑能命
あめのほひのみこと
意味
ホは穂、ヒは霊の意。稲穂の神霊の神。
系譜
135:天照大御神が右の角髪(みずら)につけていた玉を137:建速須佐之男命が噛み砕いて成る(3-2)
147:建比良鳥命の親の親(3-2)
別称
天菩比命
あめのほひのみこと
(3-2)
144
天津日子根命
あまつひこねのみこと
意味
天に坐す太陽の子の神の意。
系譜
135:天照大御神が鬘(かずら)につけていた玉を137:建速須佐之男命が噛み砕いて成る(3-2)
145
活津日子根命
いくつひこねのみこと
意味
生き生きとした太陽の子の神の意。
系譜
135:天照大御神が左手につけていた玉を137:建速須佐之男命が噛み砕いて成る(3-2)
146
熊野久須毘命
くまのくすびのみこと
意味
クマノは島根県八束郡の熊野のこと、クスビは奇し霊(くしひ)、神秘的な霊威のこと。熊野那智大社の祭神、熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)ないし熊野大社の元々の祭神のことか。
系譜
135:天照大御神が右手につけていた玉を137:建速須佐之男命が噛み砕いて成る(3-2)
天菩比命
あめのほひのみこと
出自
143:天之菩卑能命の別称
147
建比良鳥命
たけひらとりのみこと
意味
語義不詳
系譜
143:天之菩卑能命の子(3-2)

3-3. 天の岩屋戸

誓約により女性神三柱を生んだ須佐之男命は、心の優しい女の子を産んだのは自分が潔白な証拠だとして勝ちを宣言し、有頂天になって色々な乱暴を働く。最初のうち天照大御神はそれを咎めなかったが、乱暴を働いた須佐之男命のせいで機織女(はたおりめ)が死んでしまった時にはさすがに恐れおののき、「天石屋戸(あめのいはやと)」に引きこもってしまった。太陽神を失った世界はすっかり暗くなり、悪神がはびこるようになってしまった。困った神々は思金神に良策を考えさせた。思金神の妙策により天照大御神は姿を現し、世界は元通りになった。神々は相談して須佐之男命を高天原から追放した。

この神話は春に芽吹いて種を実らし秋には枯れるという穀物の一年のサイクルを、太陽神で豊穣神である天照大御神が隠れてまた姿を表すという物語で象徴したものと思われる。また所々に天皇の即位式であった践祚大嘗祭や、日の御子としての天皇霊の復活更新を願って行われた鎮魂祭(みたまふりのまつり)の投影が見て取れる。

148
思金神
おもひかねのかみ
意味
カネは兼ねの意。多くの思慮を兼ね持つ神のこと。人間の智力を神格化した神。135:天照大御神を天石屋戸から連れ出すための策を考えた。
系譜
002:髙御產巢日神の子(3-3)
別称
常世思金神
とこよおもひかねのかみ
(6-3)
149
伊斯許理度賣命
いしこりどめのみこと
意味
イシは石、コリは凝り、ドメは姥(とめ)の意。石の鋳型で鋳造する老女の神。135:天照大御神を天石屋戸から連れ出すために鏡を作った。
系譜
五伴緒神1
別称
常世思金神
とこよおもひかねのかみ
(6-3)
150
玉祖命
たまのおやのみこと
意味
玉造りの祖先の神。135:天照大御神を天石屋戸から連れ出すために勾玉を作った。
系譜
五伴緒神2
151
天兒屋命
あめのこやねのみこと
意味
祝詞と言葉を司る神。135:天照大御神を天石屋戸から連れ出すために祝詞を唱えた。
系譜
五伴緒神3
152
布刀玉命
ふとだまのみこと
意味
玉をつけ祭祀に携わる神。135:天照大御神を天石屋戸から連れ出すために幣を捧げもった。連れ出したあとに天石屋戸に縄を張ってふさいだ。
系譜
五伴緒神4
153
天手力男神
あめのたぢからをのかみ
意味
手の力の強い男神の意。腕力や技芸を司る神。135:天照大御神を天石屋戸から腕を引いて連れ出した。
別称
手力男神
たぢからをのかみ
(6-3)
154
天宇受賣命
あめのうずめのみこと
意味
ウズはかんざしのこと。神を祀る巫女の神格化。135:天照大御神を天石屋戸から連れ出すために踊りを踊った。
系譜
五伴緒神5
別称
天宇受賣
あめのうずめ
(3-3)
天宇受賣神
あめのうずめのかみ
(6-2)
天宇受賣
あめのうずめ
出自
154:天宇受賣命の略称

3-4. 大氣津比賣神

高天原を追われた須佐之男命は、大氣津比賣神の下を訪れて食べ物を求めた。大氣津比賣神は鼻や口、尻から色々な食べ物を出し、これを調理して須佐之男命に捧げたが、その様子を見た須佐之男命はそれを汚く思って大氣津比賣神を殺してしまった。するとその体の頭から蚕、目から稲、耳から粟、鼻から小豆、陰部から麦、尻から大豆が生えてきた。神產巢日神はこれをとって種とした。

ここで穀物神が殺されるのは、種を刈り取ることにより穀物神は死に、また種を撒くことによって復活するとする古代の伝承に基づいたものと考えられる。植物や食物を司る神が死んでその死体から種が成るという伝承はミクロネシアなどにも見られる。

大氣津比賣神
おほげつひめのかみ
出自
072:大宣都比賣神の別称
大氣都比賣
おほげつひめ
出自
072:大宣都比賣神の別称
大宣津比賣神
おほげつひめのかみ
出自
072:大宣都比賣神の別称

3-5. 八俣の大蛇

高天原を追われた須佐之男命は出雲国に降った。肥河(ひのかわ)に差し掛かると上流から箸が流れてきたので上流に人がいることを察した須佐之男命は上流に向かった。そこには一人の娘と老夫婦がいて、その老夫婦は泣いていた。訳を聞けば、老夫婦には元々八人の娘がいたが、毎年やってくる八頭八尾の大蛇の化け物に一人ずつ食べられてしまい、もうあとは櫛名田比賣を残すだけになってしまったのだという。須佐之男命は櫛名田比賣を妻として迎えることを条件に助けることを買って出た。先ず櫛名田比賣を櫛に変化させて自分の髪に刺し、老夫婦に強い酒を作らせた。また家に八つの門を作って門ごとに作った酒を置かせた。やってきた大蛇は須佐之男命の思惑通り八つの門に八つある頭を出して酒を飲み干すと、酔ってそのまま寝てしまった。須佐之男命は酔いつぶれた大蛇の八つの頭と尾を刀で斬って大蛇を退治した。尾の一つから剣が出てきたので珍しいと思ってこれは天照大御神に献上した。須佐之男命は櫛名田比賣は連れ立って出雲国の須賀に新居を作り住むこととなった。

八俣遠呂智は肥河の水霊であり、娘を毎年飲む込んでしまうというのは毎年河が氾濫して稲田を駄目にしたことを神話的に語ったものだと考えられる。また大蛇の尾から発見される剣「草那藝之太刀(くさなぎのつるぎ=草薙の剣)」は、肥河の上流一帯が剣に最適な砂鉄の産出地であったことを示すものであると考えられる。

須佐之男命
すさのをのみこと
出自
137:建速須佐之男命の略称
155
足名椎
あしなづち
意味
足撫で手撫で慈しむの意か。
系譜
061:大山津見神の子(3-5)
156:手名椎とともに157:櫛名田比賣の親(3-5)
別称
稻田宮主須賀之八耳神
いなだみやぬしすがのやつみみのかみ
(3-5)
156
手名椎
てなづち
意味
足撫で手撫で慈しむの意か。出自不詳。
系譜
155:足名椎とともに157:櫛名田比賣の親(3-5)
157
櫛名田比賣
くしなだひめ
意味
櫛は巫女の暗示。神田を祀る巫女の神。
系譜
155:足名椎と156:手名椎の子(3-5)
137:建速須佐之男命とともに159:八嶋士奴美神の親(3-6)
158
八俣遠呂智
やまたのをろち
意味
八頭八尾の巨大な蛇の意。
稻田宮主須賀之八耳神
いなだみやぬしすがのやつみみのかみ
意味
イナダ、スガは地名、八は聖数(この節では八が多用されている)、ミミは美称か。137:建速須佐之男命が与えた名。
出自
155:足名椎の別称

3-6. 須佐之男命の神裔

ここでは須佐之男命から大國主神に至る系譜が述べられる。これらの神々の中には語義不詳の神名を多いが、要は大國主神が須佐之男命の子孫であるということが重要であり、その間の神々は後から系譜に挿入されたものだと思われる。須佐之男命と神大市比賣の間に生まれる二神は大國主神と直接は関係ないが、二神とも穀物に関する神であり、須佐之男命が農耕とも関係が深かったことを表していると考えられる。

159
八嶋士奴美神
やしまじぬみのかみ
意味
語義不詳。
系譜
137:建速須佐之男命と157:櫛名田比賣の子(3-6)
163:木花知流比賣とともに164:布波能母遲久奴須奴神の親(3-6)
160
神大市比賣
かむおほいちひめ
意味
語義不詳。市場を司る神か。
系譜
61:大山津見神の子(3-6)
137:建速須佐之男命とともに161:大年神・162:宇之御魂神の親(3-6)
161
大年神
おほとしのかみ
意味
大は若と対なので234:若年神との対。トシは年穀の意。穀物と年の実りを司る神。
系譜
137:建速須佐之男命と160:神大市比賣の子(3-6)
213:伊怒比賣とともに214:大國御魂神・215:韓神・216:曾富理神・217:白日神・218:聖神の親(4-7)
219:香用比賣とともに220:大香山臣神・221:御年神の親(4-7)
222:天知流美豆比賣とともに223:奧津日子神・224:奧津比賣命・225:大山咋神・226:庭津日神・227:阿須波神・228:波比岐神・229:香山戶臣神・230:羽山戶神・231:庭高津日神・232:大土神・の親(4-7)
162
之御魂神
うかのみたまのかみ
意味
ウカは食物。穀物や稲の神霊たる神。
系譜
137:建速須佐之男命と160:神大市比賣の子(3-6)
163
木花知流比賣
このはなのちるひめ
意味
チルは散るの意。木花之佐久夜毘売(258:神阿多都比賣)と対の名。
系譜
61:大山津見神の子(3-6)
159:八嶋士奴美神とともに164:布波能母遲久奴須奴神の親(3-6)
164
布波能母遲久奴須奴神
ふはのもぢくぬすぬのかみ
意味
名義不詳。
系譜
159:八嶋士奴美神と163:木花知流比賣の子(3-6)
166:日河比賣とともに167:深淵之水夜禮花神の親(3-6)
165
美神
おかみのかみ
意味
谷間の水を司る神
系譜
166:日河比賣の親(3-6)
198:比那良志毘賣の親(4-5)
別称
淤加美神
おかみのかみ
(4-5)
166
日河比賣
ひかはひめ
意味
ヒカワは氷川か。水の神と思われる
系譜
165:淤美神の子(3-6)
164:布波能母遲久奴須奴神とともに167:深淵之水夜禮花神の親(3-6)
167
深淵之水夜禮花神
ふかぶちのみづやれはなのかみ
意味
淵の水の神と思われるがミヅヤレは不詳
系譜
164:布波能母遲久奴須奴神と166:>日河比賣の子(3-6)
168:天之都度閇知泥神とともに169:淤美豆奴神の親(3-6)
168
天之都度閇知泥神
あめのつどへちねのかみ
意味
語義不詳
系譜
167:深淵之水夜禮花神とともに169:淤美豆奴神の親(3-6)
169
淤美豆奴神
おみづぬのかみ
意味
語義不詳
系譜
167:深淵之水夜禮花神と168:天之都度閇知泥神の子(3-6)
170:布帝耳神とともに172:天之冬衣神の親(3-6)
170
布怒豆怒神
ふのづののかみ
意味
語義不詳
系譜
171:布帝耳神の親(3-6)
171
布帝耳神
ふてみみのかみ
意味
語義不詳
系譜
170:布怒豆怒神の子(3-6)
169:淤美豆奴神とともに172:天之冬衣神の親(3-6)
172
天之冬衣神
あめのふゆきぬのかみ
意味
語義不詳
系譜
169:淤美豆奴神と170:布帝耳神の子(3-6)
174:刺國若比賣とともに175:大國主神の親(3-6)
173
刺國大神
さしくにおほのかみ
意味
語義不詳
系譜
174:刺國若比賣の親(3-6)
174
刺國若比賣
さしくにわかひめ
意味
語義不詳
系譜
173:刺國大神の子(3-6)
172:天之冬衣神とともに175:大國主神の親(3-6)
175
大國主神
おほくにぬしのかみ
意味
国を支配する神の意
系譜
172:天之冬衣神と174:刺國若比賣の子(3-6)
177:八上比賣とともに182:木俣神の親(4-3)
139:多紀理毘賣命とともに184:阿遲鉏髙日子根神・185:髙比賣命の親(4-5)
186:神屋楯比賣命とともに187:事代主神の親(4-5)
189:鳥耳神とともに190:鳥鳴海神の親(4-5)
248:建御名方神の親(5-4)
別称
大穴牟遲神
おほなむぢのかみ
葦原色許男神
あしはらしこをのかみ
八千矛神
やちほこのかみ
宇都志國玉神
うつしくにたまのかみ
(4-5)
大穴牟遲
おほなむぢ
(4-6)
大穴牟遲神
おほなむぢのかみ
意味
ナは古語で土地の意、ムチは尊称。大地の主の神の意。
出自
175:大國主神の別称
葦原色許男神
あしはらしこをのかみ
意味
葦原は日本国土(葦原中津国)。シコヲは強く逞しい男の意。
出自
175:大國主神の別称
八千矛神
やちほこのかみ
意味
ヤチは数の多いこと。多くの矛を持った神の意。
出自
175:大國主神の別称
宇都志國玉神
うつしくにたまのかみ
意味
ウツシは現(うつ)しの意。現実の国土(現し国)の神霊たる神の意。
出自
175:大國主神の別称
第四章:大國主神

4-1. 因幡の白兎

ある日、八十神(大國主神の兄弟達)は大國主神を従者として連れて、八上比賣に求婚するために因幡に向かった。途中で毛がすっかり抜けたウサギを見かけた八十神は、ウサギに向かって「塩水に浸かってから風に当たって寝てなさい」と言った。だがこれは嘘のアドバイスで、風に当たって塩水で渇くにつれ皮膚は縮んでひび割れ、ウサギは傷み苦しんだ。最後に通りかかった大國主神だけウサギに正しいアドバイスをくれた。つまり「真水で体を洗い、蒲の花粉でとって敷いた上で寝転んでいなさい」というものだ。ウサギがその通りにするとウサギの体は元通りになった。ウサギは感謝し、大國主神にきっとあなたが八上比賣を娶ることになるだろうと言った。

176
八十神
やそがみ
意味
大勢の神々の意。175:大國主神の数多くいる兄弟をまとめた名称。
177
八上比賣
やがみひめ
意味
八上は因幡にあった地名。
系譜
175:大國主神とともに182:木俣神の親(4-3)
神產巢日之命
かみむすひのみこと
出自
003:神產巢日神の別称
178
稻羽之素菟
いなばのしろうさぎ
意味
素を本当にシロと読んだかは不明。
別称
菟神
うさぎがみ
(4-1)
菟神
うさぎがみ
出自
178:稻羽之素菟の別称

4-2. 八十神の迫害

稻羽之素菟の予見した通り八上比賣は八十神らの求婚を拒み、大國主神と結婚すると言った。八十神らは怒って大國主神を殺す算段を立てた。我々が赤い猪を追い落とすからお前は山のふもとで待ち構えてその猪を捕まえろと言って、上から猪に似た大石を赤熱するほど焼いて大國主神のもとに落としたのだ。これを捕まえようとした大國主神は焼け死んでしまった。母である刺國若比賣が嘆き悲しみ神產巢日神のわけを話すと、神產巢日神は二人の貝の神を遣わした。この二人の神により大國主神は見事に蘇った。ピンピンしている大國主神を見た八十神らは今度はうまいこといって大國主神を山に連れ込み、大木の下敷きにしてまた殺してしまった。刺國若比賣は泣きながらやっと見つけた大國主神を蘇生させ、大屋毘古神の元へと逃がした。大屋毘古神は「須佐之男命なら何とかしてくれるだろう」と言って、大國主神を須佐之男命のいる「根堅州國(ねのかたすくに)」へと逃がした。

179
𧏛貝比賣
きさがいひめ
意味
キサガイは赤貝の古名。
180
蛤貝比賣
うむぎひめ
意味
ウムギは蛤の古名。

4-3. 根之国訪問

根堅州國に参った大國主神とそれを迎えた須勢理毘賣は互いに一目ぼれして結婚したが、須勢理毘賣の親である須佐之男命は大國主神をまったく気に入らず、大國主神に様々な意地悪を仕掛けた。須勢理毘賣の機転と導きによって何とか難を逃れ死なずに済んだ大國主神は、須佐之男命が寝ている間にその髪を柱に結び、須勢理毘賣を連れて屋敷から逃げ出した。須佐之男命は途中で目覚めたものの、柱に髪が結んであるので容易に追いかけることが出来なかったが、最後の最後で大國主神を認め褒め称えてくれた。大國主神は須佐之男命からもらった刀と弓矢で八十神らを追い払い、国づくりを始めることが出来た。大國主神は約束通り八上比賣とも結婚したが、本妻である須勢理毘賣を恐れた八上比賣は我が息子を木のまたに挟んで因幡に帰っていってしまった。

181
須勢理毘賣
すせりびめ
意味
語義不詳
系譜
137:建速須佐之男命の子(4-3)
別称
須世理毘賣
すせりびめ
(4-3)
須勢理毘賣命
すせりびめのみこと
(4-4)
葦原色許男
あしはらしこを
出自
175:大國主神の別称
須世理毘賣
すせりびめ
出自
181:須勢理毘賣の別称
182
木俣神
きのまたのかみ
意味
木の又に差し挟んで八上比賣が因幡に帰ってしまったことから。
系譜
175:大國主神と177:八上比賣の子(4-3)
別称
御井神
みゐのかみ
(4-3)
御井神
みゐのかみ
意味
井戸を司る神。
出自
182:木俣神の別称

4-4. 八千矛神の妻問い

根堅州國に参った大國主神とそれを迎えた須勢理毘賣は互いに一目ぼれして結婚したが、須勢理毘賣の親である須佐之男命は大國主神をまったく気に入らず、大國主神に様々な意地悪を仕掛けた。須勢理毘賣の機転と導きによって何とか難を逃れ死なずに済んだ大國主神は、須佐之男命が寝ている間にその髪を柱に結び、須勢理毘賣を連れて屋敷から逃げ出した。須佐之男命は途中で目覚めたものの、柱に髪が結んであるので容易に追いかけることが出来なかったが、最後の最後で大國主神を認め褒め称えてくれた。大國主神は須佐之男命からもらった刀と弓矢で八十神らを追い払い、国づくりを始めることが出来た。大國主神は約束通り八上比賣とも結婚したが、本妻である須勢理毘賣を恐れた八上比賣は我が息子を木のまたに挟んで因幡に帰っていってしまった。

183
沼河比賣
ぬなかはひめ
意味
ヌナカハは越後にあった地名か
須勢理毘賣命
すせりびめのみこと
出自
181:須勢理毘賣の別称

4-5. 大國主神の神裔

ここでは大國主神の子孫たちの系譜が語られる。おそらく、もともとは須佐之男命の神裔と一続きで語られていたものを二つに分けたものらしく、「八嶋士奴美神から遠津山岬多良斯神までを「十七世神(とをまりななよのかみ)」と言う」とある。しかし、実際に数えると十五世しか存在しない(01:八嶋士奴美神、02:布波能母遲久奴須奴神、03:深淵之水夜禮花神、04:淤美豆奴神、05:天之冬衣神、06:大國主神、07:鳥鳴海神、08:國忍󠄁富神、09:速甕之多氣佐波夜遲奴美神、10:甕主日子神、11:多比理岐志流美神、12:美呂浪神、13:布忍󠄁富鳥鳴海神、14:天日腹大科度美神、15:遠津山岬多良斯神)。そこで連なる十五世から漏れる阿遲鉏髙日子根神と髙比賣命を一世、事代主神を一世として十七世と数えるのではないかという説もある。

184
阿遲鉏髙日子根神
あぢすきたかひこねのかみ
意味
アヂは美称、スキは耜の意。耜を神体とする農耕と雷を司る神。
系譜
175:大國主神と139:多紀理毘賣命の子(4-5)
別称
迦毛大御神
かものおほみかみ
(4-5)
阿遲志貴髙日子根神
あぢしきたかひこねのかみ
阿治志貴髙日子根神
あぢしきたかひこねのかみ
(5-2)
185
髙比賣命
たかひめのみこと
意味
タカヒメは兄のタカヒコと対。
系譜
175:大國主神と139:多紀理毘賣命の子(4-5)
別称
下光比賣命
したてるひめのみこと
(4-5)
下光比賣命
したてるひめのみこと
意味
シタテルは下照るの意、花びらを透かした光が美しく照りはえること、或いは赤く照ること。
出自
185:髙比賣命の別称
迦毛大御神
かものおほかみ
意味
現在の名として記載されている。
出自
184:阿遲鉏髙日子根神の別称
186
神屋楯比賣命
かむやたてひめのみこと
意味
語義不詳。
系譜
175:大國主神とともに187:事代主神の親(4-5)
187
事代主神
ことしろぬしのかみ
意味
事代は神の託宣を伝えること。託宣を司る神。
系譜
175:大國主神と186:神屋楯比賣命の子(4-5)
別称
八重事代主神
やしろことしろぬしのかみ
(5-3)
188
八嶋牟遲能神
やしろむぢのかみ
意味
語義不詳。
系譜
189:鳥耳神の親(4-5)
189
鳥耳神
とりみみのかみ
意味
語義不詳。
系譜
188:八嶋牟遲能神の子(4-5)
175:大國主神とともに190:鳥鳴海神の親(4-5)
190
鳥鳴海神
とりなるみのかみ
意味
語義不詳。
系譜
175:大國主神と189:鳥耳神の子(4-5)
191:日名照額田毘道男伊許知邇神とともに192:國忍󠄁富神の親(4-5)
191
日名照額田毘道男伊許知邇神
ひなてりぬかたびちをいこちにのかみ
意味
語義不詳。
系譜
190:鳥鳴海神とともに192:國忍󠄁富神の親(4-5)
192
國忍󠄁富神
くにのおしとみのかみ
意味
国多し富の意か。
系譜
190:鳥鳴海神と191:日名照額田毘道男伊許知邇神の子(4-5)
193:葦那陀迦神とともに194:速甕之多氣佐波夜遲奴美神の親(4-5)
193
葦那陀迦神
あしなだかのかみ
意味
語義不詳。
系譜
192:國忍󠄁富神ともに194:速甕之多氣佐波夜遲奴美神の親(4-5)
別称
八河江比賣
やがはえひめ
(4-5)
八河江比賣
やがはえひめ
意味
語義不詳
出自
193:葦那陀迦神の別称
194
速甕之多氣佐波夜遲奴美神
はやみかのたけさはやぢぬみのかみ
意味
甕に関連する神か。詳しくは不明。
系譜
192:國忍󠄁富神と193:葦那陀迦神の子(4-5)
196:前玉比賣とともに197:甕主日子神の親(4-5)
195
天之甕主神
あめのみかぬしのかみ
意味
天の甕を支配する神、つまり雨を司る神か。
系譜
196:前玉比賣の親(4-5)
196
前玉比賣
さきたまひめ
意味
サキタマは幸魂(人に幸せにする霊威)のことか。
系譜
195:天之甕主神の子(4-5)
194:速甕之多氣佐波夜遲奴美神とともに197:甕主日子神の親(4-5)
197
甕主日子神
みかぬしひこのかみ
意味
甕に関係する神か。
系譜
194:速甕之多氣佐波夜遲奴美神とともに196:前玉比賣の子(4-5)
198:比那良志毘賣とともに199:多比理岐志流美神の親(4-5)
淤加美神
おかみのかみ
出自
165:淤迦美神の別称
198
比那良志毘賣
ひならしびめ
意味
語義不詳。
系譜
165:淤迦美神の子(4-5)
197:甕主日子神とともに199:多比理岐志流美神の親(4-5)
199
多比理岐志流美神
たひりきしまるみのかみ
意味
語義不詳。
系譜
197:甕主日子神と198:比那良志毘賣の子(4-5)
201:活玉前玉比賣神とともに202:美呂浪神の親(4-5)
200
比比羅木之其花豆美神
ひひらぎのそのはなまづみのかみ
意味
ヒヒラギは柊(ひいらぎ)のことか。
系譜
201:活玉前玉比賣神の親(4-5)
201
活玉前玉比賣神
いくたまさきたまひめのかみ
意味
イクタマは生魂(生み出す霊威)、サキタマは幸魂のことか。
系譜
200:比比羅木之其花豆美神の子(4-5)
199:多比理岐志流美神とともに202:美呂浪神の親(4-5)
202
美呂浪神
みろなみのかみ
意味
語義不詳。
系譜
199:多比理岐志流美神と201:活玉前玉比賣神の子(4-5)
204:靑沼馬沼押比賣とともに205:布忍󠄁富鳥鳴海神の親(4-5)
203
敷山主神
しきやまぬしのかみ
意味
シキは不詳だが山を司る神であろう。
系譜
204:靑沼馬沼押比賣の親(4-5)
204
靑沼馬沼押比賣
あをぬまうまぬまおしひめ
意味
語義不詳。
系譜
203:敷山主神の子(4-5)
202:美呂浪神とともに205:布忍󠄁富鳥鳴海神の親(4-5)
205
布忍󠄁富鳥鳴海神
ぬのおしとみとりなるみのかみ
意味
語義不詳。
系譜
202:美呂浪神と204:靑沼馬沼押比賣の子(4-5)
206:若盡女神とともに207:天日腹大科度美神の親(4-5)
206
若盡女神
わかつくしめのかみ
意味
語義不詳。
系譜
205:布忍󠄁富鳥鳴海神とともに207:天日腹大科度美神の親(4-5)
207
天日腹大科度美神
あめのひばらおほしなどみのかみ
意味
シナドは科戸(しなと=風の起こる所)のことか。
系譜
205:布忍󠄁富鳥鳴海神と206:若盡女神の子(4-5)
208:遠津待根神とともに209:遠津山岬多良斯神の親(4-5)
天狹霧神
あめのさぎりのかみ
出自
065:天之狹霧神の別称
208
遠津待根神
とほつまちねのかみ
意味
語義不詳。
系譜
065:天之狹霧神の子(4-5)
207:天日腹大科度美神とともに209:遠津山岬多良斯神の親(4-5)
209
遠津山岬多良斯神
とほつやまさきたらしのかみ
意味
語義不詳。
系譜
207:天日腹大科度美神とともに208:遠津待根神の子(4-5)

4-6. 少名毘古那神と国作り

ある時、大國主神のもとに芋をくりぬいた舟に乗り蛾の皮を纏った小人の神が現われたが、彼は名前を名乗らなかった。そこで物知りのカカシに聞いてみると、神產巢日神の息子である、少名毘古那神であることが分かった。神產巢日神はそれを大國主神から聞いて、「兄弟となり二人で国作りを進めるとよい」と言った。二人は互いに協力して国作りの基礎をなし終えたが、少名毘古那神は途中で「常世国(とこよのくに)」へと去ってしまった。一人になった大國主神が憂えていると、海から光を放ちつつやってきた神が「私を祀ってくれるのなら協力しよう」と申し出た。大國主神はその神に言われた通り、その神を御諸山(みもろやま=今の三輪山)に祀った。古事記にはこの神の神名自体については記述されていないが、日本書紀に大國主神の和魂、奇魂であるとされている大神(おおみわ)神社の祭神を示している。

210
久延毘古
くえびこ
意味
クエビコとは崩え彦(壊れた男の意)でカカシを意味する。
別称
曾富騰
そほど
(4-6)
211
少名毘古那神
すくなびこなのかみ
意味
常世国からの来訪神。小人神で農耕神とされる。大穴牟遲のオオナに対するスクナか。
系譜
003:神產巢日神の子(4-6)
別称
少名毘古那
すくなびこな
(4-6)
神產巢日御祖命
かみむすひのみおやのみこと
出自
003:神產巢日神の別称
大穴牟遲
おほなむぢ
出自
175:大國主神の別称
少名毘古那
すくなびこな
出自
211:少名毘古那神の略称
曾富騰
そほど
意味
「(濡れ)そぼつ人」の意。
出自
210:久延毘古の別称

4-7. 大年神の神裔

ここでは、大年神の子神17神(16柱)と孫神9神(8柱)について語られる。伊怒比賣との間に生まれた子神には朝鮮系渡来人の信仰した神と思われる韓神や曾富理神、聖神が含まれている。また羽山戶神と大宣都比賣神の子の系図では、春に田植えをして(若沙那賣神)水を引き入れ(彌豆岐神)、夏に太陽が照り付けて(夏高津日神、夏之賣神)稲が生長し、秋になり(秋毘賣神)伸びて実をつけた(久久年神)稲を刈り取り、新室を建て(久久紀若室葛根神)新嘗祭で収穫を祝うという稲の種を撒いてから刈りいれるまでの道程が神名によって再現されている。

212
神活巢毘神
かみいくすびのかみ
意味
イクスビを産霊(ムスヒ)と同義とすれば、003:神產巢日神と同神か。
系譜
213:伊怒比賣の親(4-7)
213
伊怒比賣
いのひめ
意味
伊怒は出雲の地名か。
系譜
212:神活巢毘神の子(4-7)
161:大年神とともに214:大國御魂神・215:韓神・216:曾富理神・217:白日神・218:聖神の親(4-7)
214
大國御魂神
おほくにみたまのかみ
意味
国土の神霊たる神の意。
系譜
161:大年神とともに213:伊怒比賣の子(4-7)
215
韓神
からのかみ
意味
文字通り韓(朝鮮)の神の意か。
系譜
161:大年神とともに213:伊怒比賣の子(4-7)
216
曾富理神
そほりのかみ
意味
ソホリは古朝鮮語で王都のことか。
系譜
161:大年神とともに213:伊怒比賣の子(4-7)
217
白日神
しらひのかみ
意味
白く輝く太陽の意か。
系譜
161:大年神とともに213:伊怒比賣の子(4-7)
218
聖神
ひじりのかみ
意味
ヒジリを日知りとすれば暦に関係する神か。またやはり百済系渡来人が信仰した神か。
系譜
161:大年神とともに213:伊怒比賣の子(4-7)
219
香用比賣
かよひめ
意味
語義不詳。
系譜
161:大年神とともに220:大香山戶臣神・221:御年神の親(4-7)
220
大香山戶臣神
おほかがやまとおみのかみ
意味
語義不詳。
系譜
161:大年神とともに219:香用比賣の子(4-7)
220
御年神
みとしのかみ
意味
年穀を司る神。
系譜
161:大年神とともに219:香用比賣の子(4-7)
222
天知迦流美豆比賣
あめちかるみづひめ
意味
語義不詳。
系譜
161:大年神とともに223:奧津日子神・224:奧津比賣命・225:大山咋神・226:庭津日神・227:阿須波神・228:波比岐神・229:香山戶臣神・230:羽山戶神・231:庭高津日神・232:大土神の親(4-7)
223
奧津日子神
おきつひこのかみ
意味
沖の男神の意か。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
224
奧津比賣命
おきつひめのみこと
意味
沖の女神の意か。「竈(かまど)の神である」と記されている。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
別称
大戶比賣神
おほどひめのかみ
(4-7)
大戶比賣神
おほべひめのかみ
意味
オホベは大竈のことでへっつい(かまど)を司る神。
出自
224:奧津比賣命の別称
225
大山咋神
おほやまくひのかみ
意味
クヒは依代となる杭のことか。日吉神社に祀られる山の神。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
別称
山末之大主神
やますえのおほぬしのかみ
(4-7)
山末之大主神
やますえのおほぬしのかみ
意味
山の頂を支配する神の意。
出自
225:大山咋神の別称
226
庭津日神
にはつひのかみ
意味
屋敷を照らす日神の意か。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
227
阿須波神
あすはのかみ
意味
アスハは足場の意か。屋敷神とみられるが、民俗信仰では旅の神とされる。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
228
波比岐神
はひきのかみ
意味
語義不詳だが屋敷神とされる。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
229
香山戶臣神
かがやまとおみのかみ
意味
語義不詳。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
230
羽山戶神
はやまとのかみ
意味
語義不詳だが山の神であろう。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
072:大宣都比賣神とともに233:若山咋神・234:若年神・235:若沙那賣神・236:彌豆岐神・237:夏高津日神・238:夏之賣神・239:秋毘賣神・240:久久年神・241:久久紀若室葛根神の親(4-7)
231
庭高津日神
にはたかつひのかみ
意味
屋敷を高く照らす日神の意か。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
232
大土神
おほつちのかみ
意味
大地と土の神。
系譜
161:大年神と222:天知迦流美豆比賣の子(4-7)
別称
土之御祖神
つちのみおやのかみ
(4-7)
土之御祖神
つちのみおやのかみ
意味
大地の祖神の意。
出自
232:大土神の別称
233
若山咋神
わかやまくいのかみ
意味
若は大との対比、つまり225:大山咋神と対となる。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
234
若年神
わかとしのかみ
意味
若は大との対比、つまり161:大年神と対となる。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
235
若沙那賣神
わかさなめのかみ
意味
田植えをする早乙女の意か。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
236
彌豆岐神
みづまきのかみ
意味
ミヅマキは水引き、つまり灌漑の神。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
237
夏高津日神
なつたかつひのかみ
意味
夏の高い日の神の意。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
238
夏之賣神
なつのめのかみ
意味
夏を司る女神の意か。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
239
秋毘賣神
あきびめのかみ
意味
秋を司る女神の意か。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
240
久久年神
くくとしのかみ
意味
ククトシは茎年。生い立った年穀に基づく神。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
241
久久紀若室葛根神
くくきわかむろつなねのかみ
意味
ククキは茎木の意、若室は新築の家屋、ツナネは柱と横木を結び固めるための綱のこと。
系譜
072:大宣都比賣神と230:羽山戶神の子(4-7)
第五章:伊邪那岐命と伊邪那美命

5-1. 天菩比神と天若日子

天照大御神は自分の子供である天之忍󠄁穂耳命に「豐葦原之千秋長五百秋之水穂國(とよあしはらのちあきながいほあきのみずほのくに=神の国高天原に対する日本国土のこと)」を治めさせようと考え、天之忍󠄁穂耳命を天降らせたが、天降る途中で天之穂耳命が上から地上の様子をみるとひどく騒がしかったのでいったん戻った。高天原の神々は話し合い、先ず誰かを地上に遣わして平定させてから天之忍󠄁穂耳神を天降らせようという事になった。

そこで天菩比神が地上に遣わされたが、天菩比神は大國主神に懐柔し、3年経っても帰ってこなかった。次に天若日子が遣わされたが、今度は大國主神の娘である下光比賣命(髙比賣命)を嫁に娶り8年経っても帰ってこなかった。天若日子に本来の役目を思い出させるために鳴女が地上に降り、天若日子の屋敷まで赴いたが、天佐具女にたぶらかされた天若日子は鳴女を矢で射殺してしまう。この矢は高天原の髙御產巢日神のもとまで届き、不審に思った髙御產巢日神が念を篭め地上にその矢を投げ返すと、天若日子はその矢に当たって死んでしまった。

天忍󠄁穂耳神
あめのおしほみみのかみ
出自
142:正勝吾勝勝速日天之穂耳命の略称
天照大神
あまてらすおほかみ
出自
135:天照大御神の別称
天菩比神
あめのほひのかみ
出自
143:天之菩卑能命の別称
242
天津國玉神
あまつくにたまのかみ
意味
高天原の国魂の神の意。175:大國主神の別称である宇都志國玉神と対か。
系譜
243:天若日子の親(5-1)
243
天若日子
あめのわかひこ
意味
天上の若い男子の意。
系譜
242:天津國玉神の子(5-1)
244
鳴女
なきめ
意味
雉の神。伝達の神。
245
天探女
あめのさぐめ
意味
サグメは探る女の意か。
髙木神
たかぎのかみ
出自
002:髙御產巢日神の別称

5-2. 阿遲鉏髙日子根神

髙比賣命(下光比賣命)が泣きながら夫である天若日子の葬儀をしていると、そこに天若日子の旧友であった阿遲鉏髙日子根神も弔いにやってきた。天若日子と瓜二つの外見だった阿遲鉏髙日子根神を見た髙比賣命や天若日子の親縁のものは生きて天若日子が舞い戻ってきたのだと思って阿遲鉏髙日子根神にすがりついて泣き喜んだ。死人と間違えられた阿遲鉏髙日子根神は非常に怒ってその場をめちゃめちゃにして帰っていってしまった。

阿遲志貴髙日子根神
あぢしきたかひこねのかみ
出自
184:阿遲鉏髙日子根神の別称
阿治志貴髙日子根神
あぢしきたかひこねのかみ
出自
184:阿遲鉏髙日子根神の別称

5-3. 建御雷之男神と事代主神

こうして二回とも地上の視察は失敗に終わった。そこで高天原の神々は建御雷之男神と鳥之石楠船神を地上に遣わした。二人は地上に降ると大國主神と謁見し国を譲るように迫ったが、大國主神はそういったことは私の子供に尋ねてくれと事代主神の名を挙げた。その旨を告げたところ事代主神はすぐに承諾して、船をひっくり返して作った島に去っていった。

246
伊都尾羽張神
いつのおはばりのかみ
意味
刀を神格化したもの。イツは稜威(勢いの激しいこと)、オハバリは尾刃張(切っ先が張り出していること)。
系譜
この刀で073:火之夜藝速男神を016:伊邪那岐神が斬った時、刀の先からとんだ血から082:石拆神・083:根拆神・084:石筒之男神が、唾から飛んだ血から085:甕速日神・086:樋速日神・087:建御雷之男神が成る(2-4)
別称
天尾羽張神
あめのおはばりのかみ
(5-3)
建御雷神
たけみかづちのかみ
意味
246:伊都尾羽張神の子とされるのは、刀(伊都尾羽張)の鍔から岩に飛び散った血から成った神のため。
出自
087:建御雷之男神の別称
天尾羽張神
あめのおはばりのかみ
出自
246:伊都尾羽張神の別称
247
天迦久神
あめのかくのかみ
意味
カクは鹿児の意。鹿を司る神か。鍛冶に使うふいごには鹿皮を用いる。あるいはカグ(輝くの語幹)の転訛で火を司る神か。どちらにしても刀や刀鍛冶に関係する神と考えられる。
天鳥神
あめのとりふねのかみ
出自
071:鳥之石楠船神の別称
八重事代主神
やえことしろぬしのかみ
出自
187:事代主神の別称

5-4. 建御名方神

事代主神から快諾を得た二神は再び大國主神の元に戻り意見を聞くべき子神がいるかと尋ねたところ、大國主神は建御名方神の名を挙げた。その場にやってきた建御名方神は建御雷之男神に力勝負を挑むが負けて逃げ出してしまう。建御雷之男神と鳥之石楠船神は逃げ出した建御名方神を信濃の諏訪湖で追い詰め降伏させた。

248
建御名方神
たけみなかたのかみ
意味
諏訪湖の水神で武神。ミナカタは宗像(むなかた)と同語か。大國主神の神裔の段には名が見えないことから、元々は大國主神とは縁のない地方神か。
系譜
175:大國主神の子(5-4)

5-5. 大國主神の国譲り

また再び大國主神のところへ帰った二神が大國主神に詰め寄ると、今度は大國主神も諦め、地上を明け渡す事に同意した。大國主神を始めとする国津神は遠く離れた場所(黄泉之國)に隠遁し、天津神を奉ることになった。こうして二神は無事役目を果たして高天原に戻った。

249
水戶神
みなとのかみ
意味
水戸(河口)を司る神。2-3049:速秋津日子神と050:速秋津比賣神を注して水戶神と書かれているため、固有神ではないかもしれない。
系譜
250:櫛八玉神の曽祖(5-5)
250
櫛八玉神
くしやたまのかみ
意味
クシは奇し(霊妙な)の意。玉の神格化か。
系譜
249:水戶神の孫(5-5)
第六章:邇邇藝命

6-1. 邇邇藝命の生誕

やっと地上の平定が終わったので天之忍󠄁穂耳命が天降りをすることになったが、その間に天之忍󠄁穂耳命には邇邇藝命という息子が生まれていた。そこで改めて邇邇藝命が天降り地上を統治する役目を負うことになった。

この、降臨するべき神が代替わりしてしまう一見不可解な神話はおそらく史実に基づいたものだと考えられる。第40代天武天皇の妃であった第41代持統天皇は二人の息子である草壁皇子(くさかべのおうじ)を次の天皇にすることを願っていたが、草壁皇子は天皇位を継承する前に病死、その息子であった軽皇子(かるのみこ)が天皇位を継承し第42代文武天皇となった。

251
天邇岐志國邇岐志天津日髙日子番能邇邇藝命
あめにきしくににきしあまつひこひこほのににぎのみこと
意味
アメニキシクニニキシは天地が豊かに賑わう意、アマツヒコは天津神であることを示し、日子は彦(男性)の意、ホノニニギは穂が豊かに実る様を示す。穀物、特に稲を司る神。
系譜
142:天之忍󠄁穂耳命と253:萬幡豐秋津師比賣命の子(6-1)
258:神阿多都比賣とともに260:火照命・261:火須勢理命・262:火遠理命の親(6-5)
別称
日子番能邇邇藝命
ひこほのににぎのみこと
(6-1)
252
萬幡豐秋津師比賣命
よろずはたとよあきづしひめのみこと
意味
ハタは機、つまり織物の意。織物と穀物を司る女神。
系譜
142:天之忍󠄁穂耳命とともに251:天邇岐志國邇岐志天津日髙日子番能邇邇藝命・253:天火明命の親(6-1)
002:髙御產巢日神の子(6-1)
別称
日子番能邇邇藝命
ひこほのににぎのみこと
(6-1)
253
天火明命
あめのほあかりのみこと
意味
ホアカリは穂が熟して赤らむ様。稲の神。
系譜
142:天之忍󠄁穂耳命と252:萬幡豐秋津師比賣命の子(6-1)
日子番能邇邇藝命
ひこほのににぎのみこと
出自
251:天邇岐志國邇岐志天津日高日子番能邇邇藝命の略称

6-2. 猨田毘古神

邇邇藝命は地上に降りるための道を歩いていると一人の見知らぬ神が高天原と葦原中国を照らして待っていた。疑わしく思った邇邇藝命は天宇受賣命を呼びこの神を問いたださせた。その神は名を猨田毘古神という国津神であり、天孫邇邇藝命が天降ることを聞き及び、先導役を買って出るために待っていたのだと語った。

天宇受賣神
あめのうずめのかみ
出自
154:天宇受賣命の別称
254
猨田毘古神
さるだびこのかみ
意味
サルダは琉球語のサダルの転じた語か。先導する神、御先の神。

6-3. 天孫降臨

ここでは邇邇藝命の地上降臨の様子がかかれている。邇邇藝命は天兒屋命、布刀玉命、天宇受賣命、伊斯許理度賣命、玉祖の旧字体命の五神、つまり「五伴緒(いつとものを)」に加え、八尺勾璁(やさかのまがたま)と鏡と草那藝劔(くさなぎのつるぎ)、思金神と天手力男神、天石門別神も伴い、筑紫の日向の高千穂に天降った。またこの時、天忍の旧字体日命と天津久米命が一行を先導した。

常世思金神
とこよのおもひかねのかみ
出自
148:思金神の別称
手力男神
たぢからをのかみ
出自
153:天手力男神の別称
255
天石門別神
あめのいはとわけのかみ
意味
門を守る岩石の神。
別称
櫛石窻神
くしいはまどのかみ
豐石窻神
とよいはまどのかみ
(6-3)
登由宇氣神
とゆうけのかみ
出自
080:豐宇氣毘賣神の別称
櫛石窻神
くしいはまどのかみ
意味
クシは奇し(霊妙な)、イワマドは岩真門の意。
出自
255:天石門別神の別称
豐石窻神
とよいはまどのかみ
意味
豐は美称、イワマドは岩真門の意。
出自
255:天石門別神の別称
256
天忍󠄁日命
あめのおしひのみこと
意味
語義不詳
257
天忍󠄁日命
あめのおしひのみこと
意味
語義不詳

6-4. 猨田毘古神と天宇受賣命

先導役をした猨田毘古神にはその功労の恩として、天宇受賣命とその子孫が名を継ぎ「猨女(さるめ)」と名乗ることになった。その猨田毘古神であるが、ある時海で貝を獲ろうとしていたら、貝に指を挟まれて溺れてしまった。

6-5. 木花之佐久夜毘賣

邇邇藝命は木花之佐久夜毘売を見初め結婚を申し込んだ。木花之佐久夜毘賣の親であった大山津見神はこれを喜び、木花之佐久夜毘賣の姉である石長比賣も一緒に差し出した。ところが姉の石長比賣は妹の木花之佐久夜毘賣と比べると容姿がひどく醜かったので、邇邇藝命は石長比賣を帰してしまった。実は木花之佐久夜毘賣は華やかであるが短い花を象徴し、石長比賣は華やかさはないが悠久である磐を象徴していて、大山津見神は天孫とその子孫が華やかで且つ悠久であることを祈って二人を差し出したのだった。石長比賣を帰したことにより邇邇藝命とその子孫は寿命が限られた存在になってしまった。この後木花之佐久夜毘賣は邇邇藝命の子を身ごもるが、二人はまだこの時点で一夜しか過ごしてなかったため、邇邇藝命は自分の子では無いのではないかと疑った。そこで木花之佐久夜毘賣は身ごもった子が邇邇藝命の子であることを証明するために出口の無い産屋に立てこもり産屋に火を放った状態で三人の御子を無事に出産した。

258
神阿多都比賣
かむあたつひめ
意味
カムは美称、阿多は薩摩国の地名。
系譜
061:大山津見神の子(6-5)
251:邇邇藝命とともに260:火照命・261:火須勢理命・262:火遠理命の親(6-5)
別称
木花之佐久夜毘賣
このはなのさくやびめ
(6-5)
木花之佐久夜毘賣
このはなのさくやびめ
意味
サクヤは咲く+や(感動の助詞)の意。木の花と女性の美を司る女神。
出自
258:神阿多都比賣の別称
259
石長比賣
いはながひめ
意味
石とその長久な頑丈さを神格化した名。
系譜
061:大山津見神の子(6-5)
260
火照命
ほでりのみこと
意味
火が燃え始める様を名前にしたもの。ホは穂とも関連している。後述で海佐知毘古(漁師)であると説明されている。
系譜
251:邇邇藝命と258:神阿多都比賣の子(6-5)
261
火須勢理命
ほすせりのみこと
意味
火が燃え進む様を名前にしたもの。スセリは進むの意、ホは穂とも関連している。
系譜
251:邇邇藝命と258:神阿多都比賣の子(6-5)
262
火遠理命
ほをりのみこと
意味
火が燃え終わる様を名前にしたもの。ホオリは火折り、穂折りの意。後述で山佐知毘古(狩人)であると説明されている。
系譜
251:邇邇藝命と258:神阿多都比賣の子(6-5)
264:豐玉毘賣とともに266:天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命の親(7-4)
別称
天津日高日子穂穂手見命
あまつひこひこほほでみのみこと
(6-5)
天津日高日子穂穂手見命
あまつひこひこほほでみのみこと
意味
ホホデミは多くの稲穂が出るを見る、の意か。
出自
262:火遠理命の別称
第七章:火遠理命

7-1. 海幸彦と山幸彦

7-2. 海神宮訪問

263
鹽椎神
しほつちのかみ
意味
シオツチは潮の霊の意。潮流を司る神。
綿津見神
わたつみのかみ
出自
048:大綿津見神の別称
264
豐玉毘賣
とよたまびめ
意味
豐は美称、玉は魂(神霊)。天津神の神霊が依る姫の意。
系譜
048:大綿津見神の子(7-2)
262:火遠理命とともに266:天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命の親(7-4)
別称
豐玉毘賣命
とよたまびめのみこと
(7-2)
豐玉毘賣命
とよたまびめのみこと
出自
264:豐玉毘賣の別称
綿津見大神
わたつみのおほかみ
出自
048:大綿津見神の別称

7-3. 火照命の服従

265
一尋和邇
ひとひろわに
意味
尋は単位、ワニとは鮫のこと。
別称
佐比持神
さひもちのかみ
(7-2)
佐比持神
さひもちのかみ
意味
サヒとは刀剣の意、つまり刀を持つ神の意。一尋和邇が約束通り一日で262:火遠理命を地上に届けた礼に刀を授けられたことから。
出自
265:一尋和邇の別称

7-4. 鵜葺草葺不合命の生誕

266
天津日高日子波限建鵜葺草葺不合命
あまつひこひこなぎさたけうがやふきあえずのみこと
意味
ナギサは渚、建は勇ましい男、ウガヤフキアエズは鵜の羽で葺き終えない、の意。
系譜
262:火遠理命と264:豐玉毘賣の子(7-4)
267:玉依毘賣命とともに268:五瀬命・269:稻氷命・270:御毛泥命・271:若御毛泥命の親(7-4)
267
玉依毘賣命
たまよりびめのみこと
意味
玉(神霊)の依りつく姫の意。つまり巫女の神格化。
系譜
048:大綿津見神の子(7-4)
266:鵜葺草葺不合命とともに268:五瀬命・269:稻氷命・270:御毛泥命・271:若御毛泥命の親(7-4)
268
五瀬命
いつせのみこと
意味
イツセは厳稲(いつしね)の意か。
系譜
266:鵜葺草葺不合命と267:玉依毘賣命の子(7-4)
269
稻氷命
いなひのみこと
意味
イナヒは稲飯(いなひ)の意か。
系譜
266:鵜葺草葺不合命と267:玉依毘賣命の子(7-4)
270
御毛泥命
みけぬのみこと
意味
ミケは御食(みけ)の意か。
系譜
266:鵜葺草葺不合命と267:玉依毘賣命の子(7-4)
271
若御毛泥命
わかみけぬのみこと
意味
ミケは御食(みけ)の意か。
系譜
266:鵜葺草葺不合命と267:玉依毘賣命の子(7-4)
別称
豐御毛泥命
とよみけぬのみこと
神倭伊波禮毘古命
かむやまといわれびこのみこと
(7-4)
豐御毛泥命
とよみけぬのみこと
意味
豐は美称。
出自
271:若御毛泥命の別称
神倭伊波禮毘古命
かむやまといわれびこのみこと
意味
神は尊称、倭は大和、伊波禮は奈良にあった古い地名。
出自
271:若御毛泥命の別称